10周年企画
「けもの












「にしても、蓮が結婚とはなあ……」

杯を一気に煽って、ホロホロが呟いた。
数年ぶりの再会。それぞれが年を重ねて、大人になって、今またこうして皆で宴会染みたことをしている。自然と酔いは早く回り、それぞれが既に朦朧とした意識のなか、楽しい、という共通認識のみでその場に存在していた。
だから、その呟き声をはっきりと耳にしたのは、隣にいた私だけだったであろう。

「俺は、蓮は、お前と結婚するもんだと思ってたぜ」

それは彼もわかっていたのか、今度はとこちらに声が向けられる。
自制して日本酒を嘗めるに留まっていたつもりだったが、意外と酒は回るものらしい。考えなしに、口が先に走り出した。

「親が勝手に決めた婚約に、蓮様が素直に従うわけない。アンナさんたちは例外だよ」
「そんなもんかねえ」
「そんなものだよ」

手酌しようとするのを制止して、発泡酒の瓶を受け取る。差し出されたグラスに注ぐと、おっ、おっ、お、と声を上げるホロホロはまるでおっさんのようだ。……実際おっさんになってしまったのだが。こんな年の取り方はしてほしくなかった。

「ビール、飲むか?」
「……遠慮しておく」

発泡酒とビールの違いもわからない安酒飲みにはなってほしくなかった。
アンナさんの策略に見事に嵌る彼が、不憫のようで、心底幸せ者のようにも思える。

「ホロホロこそ、良かったのか?」
「なにが?」
「……いや、」

あっさりと疑問で返されてしまっては、追求を緩めるしかない。
私と蓮様の間柄なんて、幼馴染(のようなもの)にしか過ぎなかった。所詮は本家と分家の跡取り同士。恋心があったとしたも、それは私の片想いで終わる他なかったのだから。
親に敷かれた道を進むなんて、蓮様が蓮様自身を許さない。初めから、わかっていたことだった。
それよりも、その道から大きく外れたところに立っていた、彼との関係は、蓮様自身が選び取ったひとつの道として、残っていくものだと思っていたのに。

「それで、当の本人は?」
「え、……ああ、黽様を寝かしつけに別室に、」
「なるホロ」

そう言うと、ホロホロはいきなり発泡酒を瓶のまま口につけ傾けた。水を飲むように、勢いよく瓶を空にしていく。

「ホ、ホロホロ?」

口元を拭い、彼は勢いよく立ちあがる。意外と、足腰はまだしっかりしているようだった。
踏み出す一歩一歩もしっかりとしている。

「俺もあいつも、男だからさ」
「え、」
「いざとなったら、どうとだってなれるんだぜ」

こちらの目を捉えて、言い放つその姿はまるで狡猾な獣のようで、一瞬で体中のアルコールが蒸発した。
もう、言葉も出ない。

「ちょっくら、トイレ行ってくらあ、」

そうして、酔っ払いのふりをした狼は、獲物を探して去っていったのだった。


next→
***
ホロ蓮+α
というかホロとαという…続きますが。
どうせなので、昔書いた夢小説のヒロインを思い起こしながら、前半部分を書いてみました。
当時、夢小説を書きながらもヒロインは確固たる性格を持たせていたなあ、と懐かしみながら。春欄(という名前のヒロインでした)は中性っぽい口調だったので、少し紛らわしいことに。
完全版の大人なシャーマンっこたちを見て、何よりも蓮君の現状を見て、大分悩んだ結果、恐らく、自身で築く道を進むためと、その道を残していくためを思って、ああなったんだろうなあーと思いつつ。涙なんか、流さない!
最後の数行が恐ろしく下衆に見えるのは気のせいだと思います…気のせいだよね?
photo*since 24xx