おは朝うらない
中学三年生、三学期。
周りが受験でピリついている中でも、帝光中バスケ部の、所謂キセキの世代と呼ばれる面々は、それぞれスポーツ推薦で進学先を早々と決め、他とは空気を逸していた。
三年から同じクラスになった黄瀬と青峰は、そんなクラスメイトたちの雰囲気になじめず、というより、馴染む気などなく、昨日観たテレビの話や、今朝すれ違った女子高生が云々と、予鈴が鳴るまで気の抜けた会話を続けていた。
「そういや、緑間っち遅いッスねー」
「あーそーいやいねえなー。俺より遅いとかダレてんなあいつ」
もう一人、元バスケ部で同じクラスの緑間は、生真面目にも、いつも予鈴30分前には席に着いている。が、今日はまだ姿すら見ていない。
「お前は今日、早かったんだな」
「あー俺ッスか。いや、昨日、先生にこれ、見つかって」
お説教だったんスよ、と黄瀬は自らの左耳を指で挟み込んだ。部活を引退して、高校を決めてから、何となく浮ついた気持ちでピアスを開けた。モデル仲間やファンの子たちからは評判高いが、さすがに学校にしてきたのはまずかったようだ。
「耳に穴開けるとか、マゾかよおまえ」
「マゾ!?別に、一瞬スからそんなに痛みとか感じないッスよ」
「俺は無理だわ。マゾじゃねーし」
「だから、違うッス!」
そんなことをギャーギャーと騒ぎながら、予鈴5分前。段々とクラスメイトも各々の席に着いていく。と、入り口付近にいた生徒が、挨拶の声をあげた。
「緑間くん、おはよう」
「ああ、おはようなのだよ」
遅かったね、などと言われ若干ムッとした表情を浮かべながら、黄瀬と青峰の方へと近づいてくる。
「緑間っち、おはよう。遅かったッスねえ」
「よーっす」
「ああ。・・・・・・黄瀬、俺の机に座るなと何度も言わせるな」
「ごーめんッスっと」
黄瀬が笑いながら机から飛び降りると、そこに緑間のスポーツバックが置かれる。不機嫌そうに見えるのはいつものことだが、今日は普段より眉間にしわが寄っているような気がした。
「なーんか、機嫌、悪くないッスか」
「別に、普通だ」
「えー。青峰っちもそう思うッスよね」
「緑間はいつも機嫌わりーよ」
「ちょっと遅刻気味だったし、なんかあったんスか?」
「何もない。予鈴鳴るぞ、席に戻れ黄瀬」
むうっと頬を膨らませた黄瀬は、席に座った緑間の周りをぐるぐるじろじろと徘徊する。どこかおかしい、けれどそれが何かわからない、といった風に。
1限目の支度を終えた緑間は、うろちょろする黄瀬に耐えかねて机を叩いた。
「いい加減にするのだよ!」
「あっ!!」
「ンだようるせーな黄瀬」
緑間が勢いよく黄瀬に向いた瞬間に、きらり、と光るものがよぎったのを、見のがさなかった。
半ば強引に緑間の頬を手のひらではさみ、横向ける。と、振り払おうと緑間が抵抗を見せた。
「ちょ、じっと、してくださいッス」
「煩い離すのだよやめるのだよ黄瀬!」
「んだようるせえな。あ、」
青峰がだるそうに二人の攻防を見守っていると、何かに気づいたかのように声をあげた。
「青峰っち、見えたッスか?」
「おー・・・つか、似合わねー」
「う、るさいのだよ!もういいだろう黄瀬、離すのだよ」
「いやいやいや、聞きたいことは山ほどあるッスよ!」
抵抗をやめた緑間は、少しだけ居心地悪そうにうつむく。緑間の頬に触れている手のひらから羞恥が伝わってくるようで、黄瀬は少しだけ申し訳なく思い、声のトーンを一段下げた。
「はしゃいでごめんッス。もしかして、今日のラッキーアイテムなんスか?」
「・・・・・・そうだ」
予鈴が鳴ったのを機に、黄瀬は頬から手を離した。緑間はそのまま、俯いている。
「でもいくらラッキーアイテムだからって、いきなりピアス開けるなんて、思い切ったッスねえ」
緑間の右耳には小さな緑色の石がはまっていた。パッと見ただけではわかりにくいが、それを認めた後は不思議とそこに目がいく。
「髪も緑なんスから、色変えたらいいのに」
似合うけど、と付け足した声に、ほんのりと照れが混じる。
教師が入ってくる前に席に戻ろうと歩き出した黄瀬に、緑間が小さく声をかけた。
「・・・違うのだよ」
「え?なにがッスか」
振り向いて、その先の言葉を待ったが、緑間は顔をあげることなく、入ってきた教師にどやされてそのまま、黄瀬は自分の席に着いた。
『・・・・・・ーーかに座の今日のラッキーアイテムは、好きなひととのお揃いのもの!これを身につければ今日1日無敵になれるかも!?ーー・・・・・・』
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2012年8月8日pixiv投稿作品。
帝光黄緑ちゃんの日を祝して(遅刻)
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