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ただひとりの存在
ただそれだけの意味
た だ ひ と つ
一通りの細工を施してから猊下はウルリーケに休息を促した。
大きな結界を貼るのはきっと大変なのだろう。魔力の皆無な俺は呆然とそんなことを思う。
眞王の眠るこの部屋では創主と結界が争う音が聞こえて、他は何も無い。
「ホント構え過ぎですよねェ。まるで坊ちゃんを信用していないみたいっ」
わざと語尾を女口調に変えて雰囲気だけでも明るくしてみる。
彼はこちらに背を向け部屋の奥へと進み、俺は入り口の前で立ち尽くす。
「万一の備えは必要だよ?気休めにもなるし」
バチバチと絶えず音を立てる結界の近くで猊下はこちらを見た。その顔は笑っているけれど何処か無理をしているように見える。
この距離感は不安を呼ぶ。猊下の背後―あの結界の更に奥に今もあの方が生きているではないかという錯覚に陥る。
そして彼は、今もその人の帰りを待っているのではないのだろうか。
「―――ッ」
そんな疑念を振り払うように、開いた時間の差を埋めようと俺は一気に距離を詰めて猊下の身体を抱き締めた。
「ヨザ?」
行き成り過ぎるそんな行動に案の定驚いたようで、猊下は俺を引き剥がそうと肩を押す。
俺にとって何てことはない抵抗を無視して、敢えて先程よりも腕に力を入れた。
すると猊下は抵抗をやめて、だけどどうすることもなく、ただ一方的に俺が抱き締めている形になる。
「貴方は俺のもんです」
低く呻くように搾り出した声に猊下の肩は揺れる。
「貴方がどんなに偉くて俺なんか敵わないような人物の生まれ変わりだろうと、俺には関係ない」
口から急き立てるように言葉が出て息を吐く暇を与えない。
段々と落ち着いてきたので息を吸ったら、自分でも情けないと思うような弱々しい声音になってしまった。
「貴方は貴方です、猊下」
過去の流れを知るその人は暫くの沈黙の末、恐る恐る顔を上げて目線を合わす。
なんとも言えない光が、漆黒の瞳に宿っていて、息を呑んだ。
それに気付いたのか彼は眼を閉じて俺の二の腕を赤ん坊をあやすように撫でる。
「そんなの、当たり前だろう?」
やっとのことで開かれたその瞳には先程の、不安を煽るような何処か寂しげな色を隠し、いつもの様に不敵に輝く。
俺が次の言葉に迷っているうちに、猊下は嫌そうにもう1度体を俺の体を押し退けながら言った。
「いつまで抱きついてるつもり?苦しいんだけど・・・。」
口調にはこれ以上探ることをさせない意が込められていて俺は仕方なしに立ち上がる。
「・・・だって猊下のお体、気持ち良いんだものっ」
「ほら。さっさと戻って警護でも警備でもしてきたら?」
渾身のオフザケは体良く流されてしまった。
彼自身は歩を進めることをせず、どうやらまだこの場所にいるようだ。
「へーい。あ、お帰りの際はお呼び下さいねっ」
語尾を上げると同時に片目を瞑る。数多の老若男女を落として来た磨きに磨きをかけた必殺技だ。
多分、彼は俺が真面目に質問しても今みたいに誤魔化してしまうのだろう。
それ程までに猊下は過去を大事に為さってる。
「・・・どうやって」
「愛のち・・・すぐに帰ります」
愛の力、と言いたかったのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。
これ以上猊下の気分を害さない内にと俺は猊下に背を向け歩き出す。
「 」
「あれ、今、何か言いました?」
「いや、何でもないんだ」
ふと声が聞こえた気がして振り向いたけれど、猊下は首を振って答えた。
破滅の音に空耳を聞いたのだろうと、扉を閉めながらそう思い直して暗くなった外を眺めながらゆっくりと歩き出した。
***
マニメのほう。
この2人は読者(視聴者)の知らないところで密会してますよね。。是非ともその部分が欲しいのに!
・・・私のヨザムラはどうして猊下の中にヨザックを踏み込めせられないのだろう。進展しない。
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